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硬膜動静脈瘻


疾患症状について

非常に稀で難解 な硬膜動静脈瘻

 脳は硬膜という膜に包まれて頭蓋骨内におさまっています。 硬膜の中にも脳と同様に動脈、静脈が存在します。 硬膜の中を走る動脈は硬膜動脈といい、外頸動脈という主に頭皮に流れる血管からつながっています。 一方硬膜の静脈は、硬膜を栄養した後に静脈となるものと、脳を栄養して頭蓋骨の外に出る前に硬膜内の静脈洞と呼ばれるルートを通るものとがあります。 これら硬膜内の動静脈は本来は直接のつながりはなく、動脈が硬膜や脳を栄養した後に静脈となって流れ出ます。

 硬膜動静脈瘻と呼ばれる病気は、硬膜の中で本来は直接のつながりのない動静脈が何らかの原因で直接つながってしまう病気をいいます。 この病気は、脳動静脈奇形と異なり生まれながらにあるものではなく、後天的に形成されるものといわれています。 この病気が起こるきっかけとして、けが、静脈洞血栓症などが関連するといわれていますが、多くの例では原因ははっきりしません。 我が国では年間10万人当たり約0.3人程度で発症する比較的まれな病気です。

 硬膜動静脈瘻が形成されると、異常血流が流れ込む静脈は脳を栄養した静脈洞や脳から静脈洞につながる脳表の静脈であるために、硬膜動脈と脳の静脈との間に連絡ができてしまうことになります。 硬膜動脈は本来脳を栄養するものでなく、かつ動脈で圧が高いため、脳から出てきた静脈と連絡ができると様々な問題を生じえます。 常血流が静脈洞から頭蓋の外に流出する場合にはあまり問題になりませんが、その血流が脳側へ向いた時には脳の静脈に高い動脈圧がかかるため、 静脈に負担がかかり、最も重篤な場合は脳出血を生じえます。 また出血は起こさなくても脳の静脈圧が高い状態が続くと、脳を栄養した血液が滞って流出しにくくなり、結果としてその部位の脳の機能障害(麻痺、言語障害、けいれんなど)を生じることもあります。 脳の静脈圧の上昇は脳全体の圧の上昇にもつながり、長い間持続すれば、慢性頭蓋内圧亢進症として脳の機能の低下だけでなく、視力の低下、喪失などにつながることもあります。 脳と目はつながっていますので目の方に流れる静脈に高い圧がかかることもあり、この場合は目が充血したり、眼圧が上昇したり、目の動き、視力が悪化する場合があります。 脳内の静脈まで高い圧がかからない場合でも、動脈と静脈の連絡によって耳鳴りが続くこともあります。



検査・診断

血管構造の把握には 脳血管撮影 が必須である

 硬膜動静脈瘻と関連のある耳鳴り、頭痛、視力障害、眼球運動障害などが認められる場合、通常はまず頭部MRI、 MRA検査が行われます。 MRI検査で通常は認められない皮質静脈や上眼静脈などの拡張がある場合、またMRAで通常は映らない硬膜静脈洞の描出やその周囲に動脈の増生がある場合などには、 硬膜動静脈瘻の疑いがさらに強いということになり、次のCTアンギオさらにカテーテルによる脳血管撮影(血管造影検査:DSA)へと進みます。 また意識障害、片麻痺などの症状で頭蓋内出血と診断された場合でも、通常の高血圧性などの出血と異なるバターンが認められ、硬膜動静脈瘻などが疑われる際には脳血管撮影が行われます。

 カテーテルによる脳血管撮影(血管造影検査:DSA)は硬膜動静脈瘻の診断をつけるだけでなく、治療を必要とする状態かどうかの判断、様々な治療法から最も適切な手段を選ぶための情報を得るという点で最も重要な検査となります。 ただし、血栓症に伴う脳梗塞や造影剤アレルギーなどの合併症も起きうる検査ですので、その内容についてしっかりと理解する必要があります。 硬膜動静脈瘻が疑われる際には脳血管内治療医ないし脳神経外科医の診察を受けたうえで、脳血管撮影の必要性について十分な説明を受けてください。

 本検査により、硬膜動脈を主とする外頸動脈系の血管等から、硬膜静脈洞やそれにつながる静脈に直接短絡路が認められる場合には硬膜動静脈瘻の診断がつきます。 この検査結果を中心に全身状態、神経症状などを総合的に判断して、治療をどのような形で行うべきか、治療チーム内で検討を行います。



治療法

シャントポイント を押さえる

 硬膜動静脈瘻を治療せずに経過を見た場合、タイプによっては高い確率で重症化することが知られています。 様々な報告がありますが、平均値としては硬膜動静脈瘻の年間出血率は1.8%という報告があります。 この中でも、脳の静脈へ異常な血流が流れ込まない場合(専門的には皮質静脈逆流を伴わない場合といいます)には経過は非常に良好で、一般的には治療が勧められるケースは少ないといえます。

 一方で、脳血管撮影で脳の静脈へ異常な血流が流れ込んでいる状態(皮質静脈への逆流を認める場合)では脳出血や静脈性梗塞などの重大な疾患を発症する可能性が高く、危険な状態といえます。 皮質静脈逆流を認めるタイプでは脳出血が起こる確率年間8%、その他も含め重篤な症状の出現年間15%、年間死亡率約10%という報告もあり、積極的な治療が勧められます。 また、海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻で視力低下、眼球運動障害、眼圧上昇などの症状を伴っている場合も治療が必要です。

 治療には、いくつかの方法があります。
 1. 血管内治療による硬膜動静脈瘻塞栓術
 2. 開頭による硬膜動静脈瘻根治術
 3. 定位的放射線

 脳出血の危険性が低いと判断した場合は、4. 経過観察する場合もあります。



血管内治療による硬膜動静脈瘻の塞栓術

 細いカテーテルを異常血管の入り口まで誘導し、異常血管の中に液体やコイルなどをつめて異常血管を閉塞させる治療です。 先に述べたようにこの病気の本体は硬膜内の動脈と静脈の異常なつながりにあります。 従って治療法としては、動脈側から病気の近くまで到達する方法と、静脈側から病気近くまで到達する方法の2種類があります。

 動脈側から到達する方法を経動脈的塞栓術といいます。 液体塞栓物質、粒子塞栓物質、コイルなどで閉塞します。 一部の硬膜動静脈瘻ではOnyxまたはNBCAといわれる液体塞栓物質を使用することで、経動脈的塞栓術だけで治癒する可能性があります。 また異常血流を減らす効果は確実にありますので、症状を改善したい場合、手術や経静脈的塞栓術と組み合わせる場合などでも利用されます。

 静脈側から病気近くまで到達する方法を経静脈的塞栓術といいます。 静脈洞の壁に異常があり、異常血流が一回静脈洞に流れ込む場合で、かつその静脈洞が正常な血流の流れに利用されない場合にはこの静脈洞をコイルなどで閉塞させることにより、病気が治癒する可能性があります。 海綿静脈洞の病変では多くはこの方法で治療されますし、その他の部位でも条件が合えば治る確率が高くなります。

 合併症としては、脳梗塞、血管損傷、脳浮腫、脳出血などが起こりえます。

 通常カテーテル治療は足の付け根の血管から頭の血管までカテーテルを通しますが、静脈洞が閉塞している場合など足の血管からでは頭まで到達できない場合があります。 このような時には、(全身麻酔で)頭皮、頭蓋骨を切除して直接脳や硬膜の静脈にカテーテルを挿入する方法(小開頭併用血管内治療)も行うことがあります。



開頭による硬膜動静脈瘻根治術

 全身麻酔下で頭皮を切り、頭蓋骨を開け、硬膜動静脈瘻に到達し、病変を摘出ないし異常血管の遮断を行う手術です。 病変が硬膜静脈洞の壁に広く及んでいる場合は静脈洞を摘出することで、静脈洞に入らず異常血管が直接脳表の静脈につながっている場合には静脈が硬膜に入る直前を糸やクリップで遮断ないし切断することで病変が治ります。 前頭蓋窩、小脳テント部、頭蓋頸椎移行部などにできた硬膜動静脈瘻では、手術治療が有効であることが多く、完全に治る確率が高いといわれています。

 合併症として、脳内出血、脳のむくみ、手術中の脳・脳神経の損傷、感染症、痙攣や美容上の問題などがあります。

 最近では血管内治療の発展により開頭手術を必要とする例は少なくなってきています。 もともと発生数の少ない病気ですので、この病気に対する開頭手術の経験が十分な施設は少ないものと思われます。 手術中に脳血管撮影ができる設備が整っていること、ある程度以上の治療経験のある術者のいる施設で治療を受けるのが望ましいといえます。



定位的放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)

 硬膜上で異常な硬膜動脈と静脈に短絡がある場所に、高い線量の放射線を集中的にあてることにより、異常な血管連絡を閉鎖させる治療法です。 必要とされる入院期間は短く(二泊三日が標準)、患者さんへの負担も開頭手術よりも少ない治療です。 手術や血管内治療で治りにくい病変で、かつ病変の部位が狭い範囲に限局している場合には、他の治療よりも有用なことがあります。 画像検査で病気の部位が狭い領域に限局している場合に治療が可能となります。

 病変が消失するまでに2~3年を要することが多いと考えられています。また全例で病気が消失するわけではありません。 従って急いで病変を治す必要がある場合(出血後、症状悪化時など)には適しているとはいえません。数パーセント程度ですが、合併症として、放射線による脳障害や脳浮腫が生じる可能性があります。



経過

経過観察 がとても大切

 過観察をする場合、病変の性状に応じて数ヶ月〜1年間隔でMRIの検査を行い評価していきます。

脳出血をきたした場合は緊急手術を行います。それ以外の手術を行う場合は、手術前日に入院いただきます。  開頭手術、カテーテル手術ともに、症状がなければ入院期間はそれほど長く必要ではなく、概ね1週間程度で退院できることが多いです。 退院後は無症状であれば早期に日常生活に復帰することができます。

 血管内治療を行った場合は、基本はMRAでフォローを行い、必要な際に脳血管撮影を行います。 開頭クリッピング術後はMRAでは血管が写りにくいため、CTAで経過観察を行うことが多くなります。 血管内治療に比べて、開頭クリッピング術は再発、再治療が少ない傾向があるといわれています。