脳動静脈奇形
疾患症状について
若年者 にもみられる脳動静脈奇形
血液は心臓から出た後、動脈をとおして各組織に送られ、組織内の“毛細血管”を通過する際に、細胞へ酸素や栄養を供給します。
その後、静脈を通じて肺と心臓に戻っていきます。
動静脈奇形とは、毛細血管を通過することなく、動脈と静脈が直接つながってしまう病気です。
動脈と静脈は一直線につながるのではなく、ナイダスと呼ばれる複雑に入り組んだ異常な血管の塊をつくります。
動静脈奇形は体の様々な部位にできる可能性がありますが、脳にできたものを脳動静脈奇形と呼びます。
まれに体の他の部位にも関連する全身の病気(症候群とも言います)の一部として生じることがあり、その場合はその症候群特有の症状がみられます。
ナイダスが存在すると、脳組織に十分な酸素と栄養が供給できなくなります。
それを補うための体の反応として、ナイダスにつながる血管が太くなったり、血圧が上昇したりします。
その結果、ナイダス内の動静脈に過剰な圧がかかるため瘤ができたり、正常な脳がナイダスや瘤で圧迫されたりする場合があります。
最悪の場合、脳出血、くも膜下出血、てんかん発作を発症し、致命的になることもあります。
しかも、この病気は比較的若年(20~40歳)の方に発症する傾向があります。
若い方は健康な方が多いため脳の検査をすることが少なく、脳出血やてんかん発作(痙攣症状)で発見されることが多いです。
頭の異常を感じたら、まずは専門家に相談することをお勧めします。
検査・診断
血管構造・機能 を把握する事が重要
出血を疑う症状やけいれん発作で搬送された患者さんには、まず造影剤を使わない頭部単純CTを撮影します。
脳動静脈奇形は単純CTでは淡い白い影で見えることもあるので、注意深く観察しますが、はっきりしない場合もあります。
造影剤を注射してから頭部CTを撮影すると、静脈内に注入された造影剤が心臓を通って脳の動脈へ到達するので、カテーテルを動脈内に挿入しなくても、脳動脈の情報を知ることができます。
異常血管の塊や太く拡張した静脈などが造影剤ではっきりと観察できます。
CT血管撮影(CTA)という動脈の情報だけを集めて血管だけの画像にすることもできます。
現在のCTAは造影剤の流れから血管奇形を通る血流の変化を画像化することも可能です。
MRIでは、脳動静脈奇形に関わる異常血管の血流が信号として認識されずに黒く抜けて見えます。
MRIの特長として、脳と脳動静脈奇形の位置関係がよりはっきりとわかることと、CTでは分からないような、かなり古い時期の出血であっても、その痕跡を見つけることができることがあります。
血管の情報を集めて、MRAという血管だけの画像も作れます。
治療方針を考える上では、どの血管から、何本異常血管のどこに注ぎ込んでいるのか、異常血管のどこから血液は出て行くのか、出て行く血管はどの血管で何本あるのか、異常血管の中に動脈瘤など他の異常はないのかなどのより正確な情報が必要です。
そのために行うのが脳血管撮影(血管造影検査:DSA)です。
これは、カテーテルを太ももの動脈から脳動脈の近くまで誘導して造影剤を注入し、脳血管の状態を調べる検査です。
脳血管の中を流れていく造影剤を動脈から静脈まで連続して観察することで、血管の状態、血液の流れ方の情報などが分かります。
治療法
multi-modality を考える
脳動静脈奇形の治療は、生活習慣の改善、薬剤による治療、開頭手術、血管内治療、放射線治療をバランスよく組み合わせること(multi-modality)が大切です。
けいれん発作が主症状の場合、発作を抑える薬を内服していただきますが、脳動静脈奇形を治療できる薬剤はありません。そのため、外科治療を組み合わせることが好ましいです。
脳動静脈奇形の自然歴(なにも治療しないで様子を見る)は、出血発症例では年間の再出血率は初年で6~18 %、その後年間2~3 %であり、非出血例では年間出血率が2~4 %、脳動静脈奇形が増大する割合は0.2~2.8 %です。
初回出血で死亡する確率は10 %、再出血の危険性は20 %で、再出血死亡率は13 %,その後の出血による死亡率は20 %です。
仮に死亡を免れても出血で脳が破壊されて後遺症が残ったり、加齢に伴い認知機能低下が出やすかったり、けいれんのコントロールが難しかったりといった問題が残るため、脳動静脈奇形が発見された場合、出血や症状の進行を予防するために基本的には何らかの外科治療を考慮するべきです。
ただし、外科治療のリスクが高い場合、経過観察をお勧めする場合があります。
また、出血のリスクが少ない場合、上記の自然歴を十分にご理解いただいたうえで、経過観察をご希望される患者さんもいます。
治療には、いくつかの方法があります。
1. 開頭による脳動静脈奇形摘出術
2. 血管内治療による脳動静脈奇形塞栓術
3. ガンマナイフ
患者さんの症状が非常に軽く治療の危険性が高いと判断した場合は、4. 経過観察する場合もあります。
開頭手術
全身麻酔で頭の皮膚を切開して手術顕微鏡を使って脳動静脈奇形に到達し、異常血管と正常血管の境界部分を金属製の動脈瘤クリップなどで止血して、脳動静脈奇形を摘出する手術です。 脳動静脈奇形の治療としては、最も確実性が高い方法ですが、難しい手術です。 病気の大きさ(大きいものほど難しい)、部位(運動、言語、意識など、脳の重要な働きをしている場所ほど難しい)、出口の場所(脳の深い場所にあるほど難しい)などによって、手術の難しさが変わります。 1回の開頭手術で完全な摘出をめざすのが理想ですが、患者さんの安全のために2段階で手術を行うこともあります。 合併症として、脳内出血、脳の腫脹、血管閉塞による脳梗塞、手術中の脳・脳神経の損傷、感染症、痙攣や美容上の問題などがあります。
血管内治療
局所麻酔で細いカテーテルを異常血管の入口まで誘導し、動静脈奇形の本体を塞栓物質といわれるもので閉塞させる方法です。 現在では手術が可能な例では、OnyxまたはNBCAといわれる液体塞栓物質で本体を閉塞したうえで、開頭術で摘出を行います。 開頭術のリスクを減らし、より安全に摘出するために塞栓術は有用です。 また、適した病変の状態の時にはカテーテルのみで脳動静脈奇形をほぼ閉塞でき、手術が必要ない場合もあります。 のちに述べる放射線治療と組み合わせる際には、NBCAやOnyxなどの塞栓物質で動静脈奇形の本体の一部を閉塞し、体積を小さくして放射線で治療することにより、放射線治療の効果を高め、安全性を向上させることができます。
ガンマナイフ
非常に狭い範囲に高い線量の放射線を集中的にあてることで、正常脳組織に及ぼす悪影響を最小限に抑え病気を小さくする治療法です。 手術で到達することが難しい場所にある、または、手術で摘出すれば後遺症が出現することが予想される脳動静脈奇形の治療によく適しています。 病変のサイズが直径3センチ以下のものが原則として対象になります。 必要とされる入院期間は短く(2泊3日が標準)、患者さんへの負担も開頭手術よりも少ない治療です。 ガンマナイフ照射後、直ちに病変が消えてしまうわけではありません。平均して病変が消失するまでに2~3年かかると考えられています。また平均消失率は、照射後2年で69.8 %、3年で86.3 %です。脳動静脈奇形が消失するのを待っている間は、出血リスクは軽くなりますが可能性は残っています。脳血管撮影で病気が消失した後も、治療前の10分の1ですが、出血の可能性が残っていることも報告されています。1.4 %程度ですが、合併症として、放射線による脳障害が生じる可能性があります。
治療の相談について
外科治療を行う(受ける)際に大切なのは、それぞれの治療法のエキスパートが安全面と根治面をとことん話し合い、できうる最高の治療を提案する準備と、患者さんおよびご家族と治療の方針を相談することです。 医療スタッフが協力して、治療前から退院後まで、生活をサポートするための体制を整えています。
経過
経過観察 がとても大切
手術を行わずに経過観察をする場合、病変の性状に応じて数ヶ月〜1年間隔でMRIの検査を行い評価していきます。
脳動静脈奇形の治療戦略は多岐にわたるため、患者さんの状態に合わせたオーダーメイド治療プランを提案します。
未破裂脳動静脈奇形であれば多くの場合、治療前日に入院します。治療後は5~10日程度で退院できます。
複数回の治療が必要な場合、各治療の間隔は状態により変化しますので、診察の際にご提案いたします。
術後は脳の血流動態の急激な変化に伴う脳出血などのリスクがあるため、数日間の集中治療室での治療を経て、最低1週間は入院で投薬による治療を行います。
その後は脳の状態や症状に合わせてリハビリテーションを行うことがあります。
手術で脳動静脈奇形が完全に摘出された場合にはほぼ再発することはなく、てんかん発作が起きないかなど症状をしばらく観察するだけでよいとされています。
一方、塞栓術のみで治療した場合には後日再発することがありえますので、MRAや血管撮影でのフォローが必要です。
ガンマナイフ治療を行った場合には、病変が消失するまでの過程、経過中に生じる可能性がある脳浮腫、また晩期の放射線障害などを頭部MRIで長期にわたり観察していく必要があります。