研究トピックス
1.エゾウコギ由来クマリン成分イソフラキシジンのIL-6抑制作用とその分子メカニズムについて
インターロイキン6(IL-6)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの炎症性疾患におけるサイトカインストームの発生に、中心的に関与することが広く認識されている。そのため、IL-6はサイトカインストームを抑制するための治療標的とされている。我々は、エゾウコギ由来クマリン成分イソフラキシジンのIL-6の過剰発現とその発現調節に関与するシグナル伝達分子に対する影響について検討した。本研究では主に、COVID-19におけるサイトカインストームの抑制実験に頻繁に用いられているヒト肝癌細胞株HuH-7を用いた細胞培養系により行った。イソフラキシジンはHuH-7細胞におけるTPA誘導性のIL-6 mRNAの発現を濃度依存的に有意に抑制した。また今回調べた濃度の範囲内では、イソフラキシジンによるIL-6mRNA発現の抑制は、デキサメサゾンと同程度であった。イソフラキシジンはTPA誘導性のERK1/2のリン酸化を濃度依存的に阻害した。加えてMAPK/ERK阻害剤U0126は、IL-6 mRNAの発現を抑制した。しかしながら、イソフラキシジンはSAPK/JNK、Akt(Ser473)およびSTAT3(Tyr705)のリン酸化、NF-κB p65の核内移行、IκBの分解には影響を及ぼさなかった。以上の結果、イソフラキシジンはHuH-7細胞において、TPAにより活性化されたMAPK/ERK経路を選択的に阻害することにより、IL-6 mRNAの過剰発現を抑制することが明らかとなった。イソフラキシジンはサイトカインストームの抑制に有効な抗炎症性成分である可能性が示唆された。
Yamazaki T, Tokiwa T. Suppressive effect of isofraxidin on the overexpression of IL-6 and its molecular mechanism in a TPA-treated human hepatocellular carcinoma cell line, HuH-7. Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology (2024).
2. エゾウコギ由来クマリン成分イソフラキシジンの癌細胞浸潤抑制作用
7-Hydroxy-6,8-dimethoxy-2H-1-benzopyran-2-one(イソフラキシジン)は、エゾウコギ(Acanthopanax senticosus)の主要成分であるクマリン系化合物であり、鎮静や抗炎症作用などが知られているが、抗癌作用についてはこれまで検討されていなかった。我々はヒト肝癌細胞株HuH-7およびHepG2を用いた細胞培養系を用い、イソフラキシジンの抗浸潤作用、特に癌細胞の浸潤、転移に関するMMP-7および9の抑制作用について検討した。イソフラキシジンはHuH-7およびHepG2の細胞増殖に対しほとんど影響を示さなかったが、発癌プロモーターである12-O-Tetradecanoylphorbol 13- acetate(TPA)により誘導されたMMP-7および9の遺伝子、MMP-7の蛋白発現ならびにマトリゲル内浸潤を抑制した。イソフラキシジンは転写因子AP-1のDNA結合性、NF-κBの核内移行、IκBの分解に対しては影響を示さなかったが、MAPキナーゼの一つであるERK1/2のリン酸化を抑制した。以上の結果、エゾウコギ成分イソフラキシジンは、肝癌細胞株HuH-7およびHepG2を用いた細胞培養系により、細胞毒性を示すことなくMMP-7、9の発現ならびにマトリゲル内浸潤を効率よく抑制した。またこの抑制作用には、ERK1/2のリン酸化の阻害を介することが明らかとなった。
Yamazaki T., Tokiwa T.
Isofraxidin, a coumarin component from Acanthopanax senticosus, inhibits matrix metalloproteinase-7 expression and cell invasion of human hepatoma cells. Biol Pharm Bull 33:1716-1722, 2010.
3. 肝プロジェニターの性質を有する不死化肝細胞株について
THLE-5bは、成人肝から分離した上皮性細胞に対して、SV40Large T抗原遺伝子を導入した結果、増殖してきた不死化肝細胞株である。常盤が米国国立がん研究所にvisiting scientistとして(NCI,NIH,Bethesda,MD) 滞在中に樹立した。染色体は異数体性であるが、造腫瘍性はない。同細胞は、動物などで肝幹細胞として知られるoval cellに認められる多くの形質を保持し、肝細胞様細胞への分化能を有することからヒト肝プロジェニター細胞の性質を有する細胞株と考えられている。現在まで、米国を中心に、癌や再生医学などの領域で、基礎研究のためのツールとして広く利用されている。
Tokiwa T, Yamazaki T, et al.
Differentiation potential of an immortalized non-tumorigenic human liver epithelial cell line as liver progenitor cells. Cell Biol Int 30:992-998, 2006.
常盤孝義.成人肝上皮性細胞株の分化能.肝細胞研究会ホームページ 2011.
Yamazaki T, Tokiwa T.
Elevated levels of expression of cytochrome P450 3A4 in a human liver epithelial cell line in differentiation-inducing conditions. Human Cell 34: 750-758, 2021.
4. 胆道閉鎖症肝組織由来細胞の細胞培養
胆道閉鎖症(以下BA)は、小児に稀に発症する肝臓病であり、しばしば肝硬変を伴う。治療法は葛西法が中心であるが、最終的には生体肝移植が実施される場合が多い。同症には、ドナー不足、免疫抑制剤使用などの制約があり、他の治療法が種々検討されている。我々は、同症の細胞治療の可能性に鑑み、BA肝組織非実質画分の細胞培養を実施してきた。以下にこれまでの成果を羅列する。なお本研究は、国立成育医療センター研究所との共同研究であり、細胞培養の元となる生体組織はすべて同センターから供与されたものである。
・BA肝組織(肝硬変あり)非実質画分中には、非BA肝組織(肝硬変なし)と比較し、肝幹・前駆細胞マーカーであるEpCAMあるいはThy-1の陽性細胞が有意に多く存在することが判明した(文献1)。
・BA肝組織非実質画分を分化誘導培地で培養した場合、1-2週後、肝細胞様細胞の集団(クラスター)が出現することを見出した。これらのクラスターは、高密度培養において認められ、低密度では認められなかった。肝細胞様細胞は、形態的には大型のいわゆる成熟肝細胞とは異なり、やや小型であった。また機能的には、成熟肝細胞の機能に加えて、未熟な小型肝細胞の機能を有していた(文献2)。
・クラスター出現機構の一端の解明を、肝細胞増殖因子HGFの関与の有無から試みた。HGFはクラスターの出現と並行して発現が認められると同時に、HGFレセプター(c-Met)阻害剤を添加した場合、クラスターの出現が有意に低下した。以上の結果から、クラスターの出現におけるHGF/c-Metシグナルの関与が示唆された(文献3)。
・BA肝組織非実質画分の単離細胞は、凍結保存液としてSTEM-CELLBANKERを用いた場合、効率良く凍結保存された。(文献4)。
以上から、BA肝組織非実質画分の細胞培養において、肝細胞様細胞のクラスターが出現することが明らかとなった。しかしながら、クラスターを構成する肝細胞様細胞が、非実質分画残存肝細胞様細胞の増殖によるか、肝幹・前駆細胞からの分化によるかは明らかにしておらず、今後の研究課題である。いずれにしても本研究は、将来のBAの細胞治療に繋がるものと考えられる。
1. Yamazaki T, Enosawa S, Kasahara M, Fukuda A, Sakamoto S, Shigeta T, Nakazawa A, Tokiwa T.
Isolation of hepatic progenitor cells from human liver with cirrhosis secondary to biliary atresia using EpCAM or Thy-1 markers. Cell Med 3:121-126, 2012.
2. Tokiwa T,Wakai M, Yamazaki T, Enosawa S.
Development, characterization and isolation of small hepatocyte-like cells from primary cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. Int J Stem Cell Res 3:17-24, 2017.
3. Yamazaki T, Wakai M, Enosawa S, Tokiwa T.
Analysis of soluble factors in conditioned media derived from primary cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. In Vitro Cell Dev Biol 53: 564-573, 2017.
4. Yamazaki T, Enosawa S, Tokiwa T.
Effect of cryopreservation on the appearance and liver function of hepatocyte-like cells in cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. In Vitro Cell Dev Biol 54: 401-405, 2018.
5. SW982細胞株について
通常、培養ヒト細胞を用いた研究を始めようとする場合、手術などで採取した初代培養細胞を用いるか、株化細胞を用いるかのいずれかの方法が選択される。前者は、利用に限界があるが、後者は、細胞が凍結保存されている限り、ほぼ無限に使用可能である。我々は、炎症性サイトカインの遺伝子発現に及ぼす、ある種の物質の影響をin vitroで検討する必要性から、モデルとなる細胞株を探し、SW982細胞株に行き着いた。同細胞株は、ヒト滑膜肉腫由来の細胞であるが、その増殖能や細胞機能については不明のまま(当時、関連論文は皆無であった)、American type culture collection (ATCC, Bethesda, MD. USA)の細胞タンク内に保存されていた。我々は、おそらくは同細胞株を用いた初めての基礎的研究において、同細胞の高い増殖能を確認するとともに、同細胞は、インターロイキンIL-1βに良く反応し、各種炎症性サイトカイン遺伝子の発現が強く誘導されることを見出した。これらの遺伝子発現プロフィルは、正常ヒト滑膜細胞の初代培養で認められているそれらと近似するものであることから、同細胞株の有用性が示唆された。これらの成果は、下記の論文などで発表したが、その後、国内外の研究機関における関連研究において、同細胞株が利用され、同論文が引用されている。
Yamazaki T., Yokoyama T., Akatsu H., Tsukiyama T. and Tokiwa T.
Phenotypic characterization of a human synovial sarcoma cell line, SW982, and its response to dexamethasone. In Vitro Cell Dev Biol 39:337-339, 2003.
常盤孝義 宝物は何処にあったかー細胞株を探す.
ヒューマンサイエンス 2005; 16(3):26-27.
インターロイキン6(IL-6)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの炎症性疾患におけるサイトカインストームの発生に、中心的に関与することが広く認識されている。そのため、IL-6はサイトカインストームを抑制するための治療標的とされている。我々は、エゾウコギ由来クマリン成分イソフラキシジンのIL-6の過剰発現とその発現調節に関与するシグナル伝達分子に対する影響について検討した。本研究では主に、COVID-19におけるサイトカインストームの抑制実験に頻繁に用いられているヒト肝癌細胞株HuH-7を用いた細胞培養系により行った。イソフラキシジンはHuH-7細胞におけるTPA誘導性のIL-6 mRNAの発現を濃度依存的に有意に抑制した。また今回調べた濃度の範囲内では、イソフラキシジンによるIL-6mRNA発現の抑制は、デキサメサゾンと同程度であった。イソフラキシジンはTPA誘導性のERK1/2のリン酸化を濃度依存的に阻害した。加えてMAPK/ERK阻害剤U0126は、IL-6 mRNAの発現を抑制した。しかしながら、イソフラキシジンはSAPK/JNK、Akt(Ser473)およびSTAT3(Tyr705)のリン酸化、NF-κB p65の核内移行、IκBの分解には影響を及ぼさなかった。以上の結果、イソフラキシジンはHuH-7細胞において、TPAにより活性化されたMAPK/ERK経路を選択的に阻害することにより、IL-6 mRNAの過剰発現を抑制することが明らかとなった。イソフラキシジンはサイトカインストームの抑制に有効な抗炎症性成分である可能性が示唆された。
Yamazaki T, Tokiwa T. Suppressive effect of isofraxidin on the overexpression of IL-6 and its molecular mechanism in a TPA-treated human hepatocellular carcinoma cell line, HuH-7. Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology (2024).
2. エゾウコギ由来クマリン成分イソフラキシジンの癌細胞浸潤抑制作用
7-Hydroxy-6,8-dimethoxy-2H-1-benzopyran-2-one(イソフラキシジン)は、エゾウコギ(Acanthopanax senticosus)の主要成分であるクマリン系化合物であり、鎮静や抗炎症作用などが知られているが、抗癌作用についてはこれまで検討されていなかった。我々はヒト肝癌細胞株HuH-7およびHepG2を用いた細胞培養系を用い、イソフラキシジンの抗浸潤作用、特に癌細胞の浸潤、転移に関するMMP-7および9の抑制作用について検討した。イソフラキシジンはHuH-7およびHepG2の細胞増殖に対しほとんど影響を示さなかったが、発癌プロモーターである12-O-Tetradecanoylphorbol 13- acetate(TPA)により誘導されたMMP-7および9の遺伝子、MMP-7の蛋白発現ならびにマトリゲル内浸潤を抑制した。イソフラキシジンは転写因子AP-1のDNA結合性、NF-κBの核内移行、IκBの分解に対しては影響を示さなかったが、MAPキナーゼの一つであるERK1/2のリン酸化を抑制した。以上の結果、エゾウコギ成分イソフラキシジンは、肝癌細胞株HuH-7およびHepG2を用いた細胞培養系により、細胞毒性を示すことなくMMP-7、9の発現ならびにマトリゲル内浸潤を効率よく抑制した。またこの抑制作用には、ERK1/2のリン酸化の阻害を介することが明らかとなった。
Yamazaki T., Tokiwa T.
Isofraxidin, a coumarin component from Acanthopanax senticosus, inhibits matrix metalloproteinase-7 expression and cell invasion of human hepatoma cells. Biol Pharm Bull 33:1716-1722, 2010.
3. 肝プロジェニターの性質を有する不死化肝細胞株について
THLE-5bは、成人肝から分離した上皮性細胞に対して、SV40Large T抗原遺伝子を導入した結果、増殖してきた不死化肝細胞株である。常盤が米国国立がん研究所にvisiting scientistとして(NCI,NIH,Bethesda,MD) 滞在中に樹立した。染色体は異数体性であるが、造腫瘍性はない。同細胞は、動物などで肝幹細胞として知られるoval cellに認められる多くの形質を保持し、肝細胞様細胞への分化能を有することからヒト肝プロジェニター細胞の性質を有する細胞株と考えられている。現在まで、米国を中心に、癌や再生医学などの領域で、基礎研究のためのツールとして広く利用されている。
Tokiwa T, Yamazaki T, et al.
Differentiation potential of an immortalized non-tumorigenic human liver epithelial cell line as liver progenitor cells. Cell Biol Int 30:992-998, 2006.
常盤孝義.成人肝上皮性細胞株の分化能.肝細胞研究会ホームページ 2011.
Yamazaki T, Tokiwa T.
Elevated levels of expression of cytochrome P450 3A4 in a human liver epithelial cell line in differentiation-inducing conditions. Human Cell 34: 750-758, 2021.
4. 胆道閉鎖症肝組織由来細胞の細胞培養
胆道閉鎖症(以下BA)は、小児に稀に発症する肝臓病であり、しばしば肝硬変を伴う。治療法は葛西法が中心であるが、最終的には生体肝移植が実施される場合が多い。同症には、ドナー不足、免疫抑制剤使用などの制約があり、他の治療法が種々検討されている。我々は、同症の細胞治療の可能性に鑑み、BA肝組織非実質画分の細胞培養を実施してきた。以下にこれまでの成果を羅列する。なお本研究は、国立成育医療センター研究所との共同研究であり、細胞培養の元となる生体組織はすべて同センターから供与されたものである。
・BA肝組織(肝硬変あり)非実質画分中には、非BA肝組織(肝硬変なし)と比較し、肝幹・前駆細胞マーカーであるEpCAMあるいはThy-1の陽性細胞が有意に多く存在することが判明した(文献1)。
・BA肝組織非実質画分を分化誘導培地で培養した場合、1-2週後、肝細胞様細胞の集団(クラスター)が出現することを見出した。これらのクラスターは、高密度培養において認められ、低密度では認められなかった。肝細胞様細胞は、形態的には大型のいわゆる成熟肝細胞とは異なり、やや小型であった。また機能的には、成熟肝細胞の機能に加えて、未熟な小型肝細胞の機能を有していた(文献2)。
・クラスター出現機構の一端の解明を、肝細胞増殖因子HGFの関与の有無から試みた。HGFはクラスターの出現と並行して発現が認められると同時に、HGFレセプター(c-Met)阻害剤を添加した場合、クラスターの出現が有意に低下した。以上の結果から、クラスターの出現におけるHGF/c-Metシグナルの関与が示唆された(文献3)。
・BA肝組織非実質画分の単離細胞は、凍結保存液としてSTEM-CELLBANKERを用いた場合、効率良く凍結保存された。(文献4)。
以上から、BA肝組織非実質画分の細胞培養において、肝細胞様細胞のクラスターが出現することが明らかとなった。しかしながら、クラスターを構成する肝細胞様細胞が、非実質分画残存肝細胞様細胞の増殖によるか、肝幹・前駆細胞からの分化によるかは明らかにしておらず、今後の研究課題である。いずれにしても本研究は、将来のBAの細胞治療に繋がるものと考えられる。
1. Yamazaki T, Enosawa S, Kasahara M, Fukuda A, Sakamoto S, Shigeta T, Nakazawa A, Tokiwa T.
Isolation of hepatic progenitor cells from human liver with cirrhosis secondary to biliary atresia using EpCAM or Thy-1 markers. Cell Med 3:121-126, 2012.
2. Tokiwa T,Wakai M, Yamazaki T, Enosawa S.
Development, characterization and isolation of small hepatocyte-like cells from primary cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. Int J Stem Cell Res 3:17-24, 2017.
3. Yamazaki T, Wakai M, Enosawa S, Tokiwa T.
Analysis of soluble factors in conditioned media derived from primary cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. In Vitro Cell Dev Biol 53: 564-573, 2017.
4. Yamazaki T, Enosawa S, Tokiwa T.
Effect of cryopreservation on the appearance and liver function of hepatocyte-like cells in cultures of cirrhotic liver of biliary atresia. In Vitro Cell Dev Biol 54: 401-405, 2018.
5. SW982細胞株について
通常、培養ヒト細胞を用いた研究を始めようとする場合、手術などで採取した初代培養細胞を用いるか、株化細胞を用いるかのいずれかの方法が選択される。前者は、利用に限界があるが、後者は、細胞が凍結保存されている限り、ほぼ無限に使用可能である。我々は、炎症性サイトカインの遺伝子発現に及ぼす、ある種の物質の影響をin vitroで検討する必要性から、モデルとなる細胞株を探し、SW982細胞株に行き着いた。同細胞株は、ヒト滑膜肉腫由来の細胞であるが、その増殖能や細胞機能については不明のまま(当時、関連論文は皆無であった)、American type culture collection (ATCC, Bethesda, MD. USA)の細胞タンク内に保存されていた。我々は、おそらくは同細胞株を用いた初めての基礎的研究において、同細胞の高い増殖能を確認するとともに、同細胞は、インターロイキンIL-1βに良く反応し、各種炎症性サイトカイン遺伝子の発現が強く誘導されることを見出した。これらの遺伝子発現プロフィルは、正常ヒト滑膜細胞の初代培養で認められているそれらと近似するものであることから、同細胞株の有用性が示唆された。これらの成果は、下記の論文などで発表したが、その後、国内外の研究機関における関連研究において、同細胞株が利用され、同論文が引用されている。
Yamazaki T., Yokoyama T., Akatsu H., Tsukiyama T. and Tokiwa T.
Phenotypic characterization of a human synovial sarcoma cell line, SW982, and its response to dexamethasone. In Vitro Cell Dev Biol 39:337-339, 2003.
常盤孝義 宝物は何処にあったかー細胞株を探す.
ヒューマンサイエンス 2005; 16(3):26-27.